懐かしい未来「気の日本人」②

毎年11月の一の酉の日、前橋市千代田町の熊野神社で大酉祭(酉の市)が行われます。数年来、かつて盲学校の生徒で今は耀学舎で施術をしている中島君と、仕事帰りに立ち寄り、「運気の礎」と呼ばれる巨大な水晶に手を近づけてはその神気を感じたり、酉の市が持つ独特の活気ある雰囲気を楽しんでおりました。とりわけ視力のない中島君には、嬉しい貴重な時間です。昨年はコロナの影響で大酉祭は夕方6時までとなり、お昼休みを延長して熊野神社の境内に入り「運気の礎」を探したのですが、見当たりません。聞けば、コロナで人々の密集を避けるため、公開しないということでした。

 

残念な気持ちでいると、突如美しい音色が境内に響き渡り、見れば神事を題材にしたと思われる舞いが始まったところでした。日本の古典芸能に以前から惹かれていた私は、予期せず始まった、その優美で神秘的な舞いと楽曲、そして演じる方々の美しい所作や表情に魅せられ、申し訳程度の説明を見えない中島君にしながら、全てを脳裏に焼き付けるように、目を見張って鑑賞しておりました。

 

舞いが終わり境内を後にして、私の肩につかまって歩く中島君に「ごめんね。自分だけ楽しんで」と詫びると、中島君は弾むような声でこう言ったのです。「先生は気付かなかったですか? 役者さんたちから、とても強い気が湧き上がっていたんです!ずっとそれを感じていたから、最初から最後まで楽しかったですよ」。聞いた瞬間、それぞれの役者さんからゆらゆらと立ち上る陽炎のような気が、上空で溶け合う様を想像し、その美しさを想いました。この世には、五感を越えた美しさがきっとあるのでしょうね。

 

熊野神社大酉祭ご奉納の舞いについて:鬼石町で活動する神流神楽会が、前橋熊野神社の大酉祭の時のみ「熊野八咫烏獅子神楽伝承会」という名称で奉納演奏をしている。今年は雨天のため、隣接する立町公民館2階で奉納された。