卒業生へのあん摩研修の様子

   ゆたかな休日プログラム          (フロアバレーボール)

 

 

 

 

 

 

一般社団法人群馬ライトスクールは、赤い羽共同募金会から資金をいただき、活動をしております。県民の皆様方のご支援に、心より感謝申し上げます。


 

1 就労支援と社会貢献

 

 現在に至るまで視覚障害者にとっての主要な就労として、あん摩マッサージ指圧師(通称あマ指師)、鍼師、灸師があります。そのために全国各都道府県の盲学校には、それらを養成するための専攻科が設置されており、戦後の就労・雇用行政の中でも、視覚障害者の職域として尊重されてきたとも言えるでしょう。しかしながら今日、健常者を対象とした鍼灸師養成のための専門学校が数多く開設され、また資格なしに営業する安価なリラクゼーション業界の店舗が街に溢れております。さらには「あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師等に関する法律」の憲法19条と職業選択の自由を巡る裁判の中で、鍼灸師のみならずあマ指師の職域も視覚障害者から奪われかねない危機的な状況が生まれております。

 

次に、日本における鍼灸・あん摩の歴史に言及してみたいと思います。とりわけ有名なのは、将軍綱吉に仕えた「検校」杉山和一です。彼は現在でも日本鍼に使われている鍼管を用いた治療を考案し、その後盲人のための学校を設立して、多くの優秀な鍼灸師を養成しました。検校とは盲人に与えられた高位の官職であり、江戸期において視覚障害者が鍼灸・あん摩の職域において社会的信用が絶大であったことが窺える事例と言えます。注目したいのは、このことが幕府の障害者福祉・雇用政策ではなく、真に視覚障害者の能力を評価しての制度であったことです。しかしながら明治期に入りますと、富国強兵政策の中で戦地で機能しない東洋医学が日本の医学の王道から外れ、戦後のGHQによる統治政策の中で、いわゆる「鍼灸禁止令」が出され、有志の人々によって禁止令そのものは阻止されたものの、自然と調和した日本伝統の漢方・鍼灸あん摩といった東洋医学は、その本質的な力を弱めていかざるを得ませんでした。前述した今日の情勢は、こうした歴史的変遷と無関係ではありません。

 

これらの状況に鑑み、当法人は、視覚に障害のある鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師が、本来人間に備わる優れた皮膚感覚や気感を育み、伝統的な東洋医学や薬膳などの食の知識を学びながら働くことを支援すると共に、研修の場を設けることで、卒業後の就労支援を行いたいと考えております。現在この分野については、赤い羽根共同募金会の支援を受けながら事業を展開しております。募金をいただいている県民の皆様方に心から感謝をしつつ、無料のあん摩体験会や分かりやすい東洋医学セミナーを実施しております。そうした活動の中で、薬膳に基づいた食生活や自然と調和した生活の仕方等を広めていきます。 さらに今後は、鍼灸・あん摩の職域以外でも、視覚に障害のある方々の特性を生かした就労や社会貢献を、他機関と連携しながら模索していきたいと考えています。

 

2 生活支援

 

  視覚に障害のある方々の日常生活には、常に移動の困難さがつきまとうため、買い物や通院、銀行や役場での手続き等を一人で行うのが難しいのが現状です。2011年(平成23年)、そうした視覚に障害のある方々を対象とした個別支援の福祉サービスが障害者自立支援法の取り組みの一つとして始まりました。私たちの法人には、長年盲学校の教職員をしていた者が多数おりますので、これまで培った専門性を生かしながら、同行援護事業を始めることにいたしました。この事業を行うに当たっては、法人の設立の趣旨に鑑み、視覚に障害のある方々の日常生活がより豊かになるように、そしてお一人お一人がお持ちの能力が開花し、QOL(生活の質)が高まっていくようなご支援をさせていただければと考えております。ですから冒頭に述べた事柄の他にも、趣味の活動・文化的な活動・ランニング(伴走)・ウォーキングなど、多様な活動のお手伝いをしております。

 また、白杖歩行訓練については、群馬県視覚障害者福祉協会に協力する形で、訪問型の歩行訓練指導や群馬県社会福祉総合センターにおける歩行訓練を行っております。

 

  今後は、視覚に障害のある方々のための居宅介護やグループホームの開設等を目指すべく、法人の基盤を整えていく考えでおります。関係する皆様方のご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

 

 

3  余暇活動の支援

 

 前の項目で述べた通り、視覚障害には常に移動能力のハンディが付きまとい、外出の機会が必然的に少なくなる傾向があります。このことは、ICF(WHOの国際生活機能分類)の見地からしても「活動」や「参加」が阻害され、結果として社会的孤立や心身症・生活習慣病の発症などの健康状態の悪化につながることが懸念されます。

 

 そこで群馬ライトスクールでは、群馬県立盲学校の体育館と音楽室を借用し、「ゆたかな休日プログラム」と名付けた余暇活動支援を2018年より始めました(当時はまだ任意団体)。活動内容は、体育館における「フロアバレーボール」、音楽室における「音楽活動」です。フロアバレーボールは、視覚障害者のためのスポーツですが、公式ルールで健常者の参加が認められており、まさに共生社会型のスポーツと言うことができます。また音楽は、視覚に障害がある方々の生涯に渡る楽しみとして、最もポピュラーなものです。実際に、活動開始当初から毎回10名を超える卒業生が活動に参加し、大学生ボランティアや盲学校職員の参加もあり、参加者総数が回を追うごとに増加してゆく中で、相互の交流を通してのインクルーシブな環境が、自然に整ってきておりました。そして2019年度は、月2回の定例の活動の他に、フロアバレーボールについては東京や埼玉への遠征試合が行われました。

 

 しかしながら2020年度以降、コロナ蔓延の影響により盲学校の施設の利用が困難となってしまったため、県の施設や前橋市のコミュニティーセンター、敷島小学校等のご協力を得て、活動を何とか継続したいと考えております。

 

                                                             

4 講演会・セミナー等による啓蒙

 

  情報化・デジタル化の進展の中、「視覚優位」が加速度的に進む現代社会において、視覚障害者の生活は、多くの困難に直面していると言わざるを得ません。しかし見方を変えれば、残存する他の感覚を総動員する視覚障害者の生活は、視覚以外の感覚が相対的に軽視される現代社会において、多くの示唆を与えてくれているとも言えるでしょう。とりわけ、中途視覚障害者が味わう喪失感とそこから帰還する心的エネルギーや眠っていた感覚活用は、不安定な時代にあって、ある意味先駆的な役割さえ果たすことが考えられます。そうした思いから、当法人の第1回目の講演会は、全国障害者空手道選手権大会視覚障害女子個人型で5連覇を達成された前橋在住の小暮愛子さんにお願いし、失明以来の長いトンネルの中で空手道の世界に入り、「心眼」の大切さを知ることとなった経緯を、講演と座談会の中で表現していただきました。

 

 また昨年度は、赤い羽根共同募金会の支援を受け、分かりやすい東洋医学セミナーを視覚に障害のある方とそのご家族を対象に実施いたしました。今年度は気功の先生をお招きし、さらに充実したセミナーを実施したいと考えおります。これらの活動の中で、薬膳に基づいた食生活や自然と調和した生活の仕方等を、共に学ぶことができればと願っています。

                                 

5  学校の教材・教具の開発

 

  視覚に障害のある児童・生徒の教材不足は、全日本的な(実をいうと全世界的な)問題です。知的な障害がなければ、通常の教科書と同じ内容の点字教科書・拡大教科書を使って学ぶのですが、例えば地図を最初から点字地図で読み取れるはずはなく、どうしても触察地図(視覚障害者の学習のために意図されて作られる立体的な地図)が必要になります。当然のことながら市販のものはありません。したがって社会科教師が手作りで対応することになるわけです。

 

  幸運なことに、平成25年度前橋工科大学地域課題研究事業において「視覚障害者の学習支援に向けた触察教材の開発」が採用され、かなり精度の高い手のひらサイズの触察地球儀や群馬県の触察地図等を作ることができました。全国盲学校教育研究会で発表したところ大きな反響がありましたが、当時は販売主体がなく、群馬県立盲学校以外に教材を供給することができませんでした。そこで、今回の法人設立にあたり、これまで蓄積してきたノウハウと人脈を生かして触察教材の開発に着手できないかと思っております。

 

  今後、元「前橋工科大学特任教授の行富誠一先生や女子美術大学講師の春日亀美智雄先生、関係する研究機関、欧文印刷株式会社等企業の協力を仰ぎつつ製品開発を進め、全国の盲学校に教材を供給したいと考えています。

 

※(株)欧文印刷は、前橋駅の触地図作成にあたりJR高崎支社及び群馬県立盲学校との協働した実績があり、当法人の触察地図の製品化についても、すでに貴重なご意見をいただいております。